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人使いの荒い親衛隊長に辺境の森の魔物退治を振られたせいで、予定が押しに押しまくっていた。
他の時ならどうということもなかったが、今日の午後にチゼータ訪問の為にブラヴァーダで出港することはずいぶん前から決まっていた。
手を焼いていたならもっと早くに言えばいいものを、出掛ける準備をしていた昨日になって『留守にする前に助(すけ)てやってくれんか』などと言い出したのだ。
管轄主義なのか何なのか知らないが、ラファーガはギリギリまで親衛隊の面子(めんつ)だけで乗りきろうとするきらいがある。
いつまでも手取り足取りでは新入りが育たないという考えも有るのだろうが、彼らが疲弊するほどではやり過ぎだろう。
そこそこの手が要るならそれなりの配慮はするのにと思いつつ、そんなことをこちらから言い出せばこじれるだろうかと様子見を決め込んでいた。
今後に関してはまた帰国してからの案件だ。
精獣を喚んで廊下を駆けるなと導師に口煩く言われているので、致し方なく可能な限りの速歩きになる。
チゼータ皇太后の生誕祭に招かれ公式訪問するフェリオ王子はすでにブラヴァーダに乗り込んで待機中だというし急がねばと廊下を歩いていて、ふいに現れた気配に足が止まった。
「ヒカル…?」
学校があるはずなのにどうしたのかと気にはなるが、これ以上姫君達を待たせる訳にはいかない。
これがオートザムのNSXなら半日でも一日でも容赦なく待たせて広間に逆戻りしたのになどと考えていると、先日教えたばかりの近道を上手に辿ってあっという間に下まで降りてきていた。
「やった!ランティス見ーっけ!こんにちは♪もう間に合わないかと思ったけど慌てて降りてきたんだ。あ、歩きながらでいいよ。散々待たされてタータがもの凄く怒ってるらしいから…」
そう言われては立ち話も出来ずに歩を進めるが、光のほうはたかたか走っているような状態だ。
「ガッコウはどうした?」
「午前中だけ行ったよ。先生たち、会議で出張だから半日だったんだ。顧問の先生もいないから、部活もお休み!覚兄様も警察に出稽古つけに行ってるし、ランティスに逢いたくなったから『ちょっと寄り道する』って留守電だけ入れて来ちゃった。…ダメか?」
愛らしい顔を曇らせてそんなことを問いかけられて否と言える男がいるなら是非ともお目にかかりたいものだ。
「いや…悪くない」
「えへっ。やっぱり来て良かったー。その服、プレセアが考えてくれたおニューなんだよね?!」
「『おニュー』?」
「『おろしたて』ってことだよ!」
「ああ、そうだ」
「黒の鎧も好きだし、白の神官の服もいいけど、間のいいとこ取りって感じがするね。スッゴくカッコいい!!」
自分としては別に黒の鎧だけで構わなかったのに、導師に『そのなりでうろうろされては鬱陶しい!』などと言われ、ときおり神官の白い服も着るようになってはいたものの、あの格好は機動性に著しく欠けていた。
こういう公式訪問の折にも、鎧ではものものし過ぎるし、神官のなりでは万が一の対応にやや難があるからということで見兼ねた創師プレセアが仕立ててくれたのだ。
頓着する質(たち)ではないので、おろしたてだからどうということはなかったが、某国王家への礼儀云々より、愛しい娘が喜んでくれるほうが断然良いに決まっている。
「それって、やっぱりよそ行き?お仕事の時しか着ないのか?」
「……?」
光がそんなことを訊ねる意味を図りかねて答えずにいると、さっきまでのにこにこ上機嫌な顔がわずかに翳った。
「ヒカル…?」
「あのね、凄く素敵だから、今度一緒お出かけする時はその格好がいいなぁ…なんて。あ、でも、駄目ならいいんだ」
普段おねだりらしいおねだりをしない光にそんなことを言われて拒む理由など見当たらない。たとえあっても押しきってやる。
ふと思いついた考えは、我ながら名案だとわずかに笑みが零れた。
「なら、ヒカルにもセフィーロ風の衣(きぬ)を仕立ててもらおう。俺の物を考えるより、余程楽しんでやってくれるだろう」
「えっ?でも私、海ちゃんみたいにセフィーロでアルバイトしてないから、こっちの通貨ないよ」
海は考案のセフィーロ銘菓などのレシピのロイヤリティでちゃっかり小遣い稼ぎをしているらしい。
トウキョウにはミツグ君を多数揃えて欲しい物をあれこれ買わせる娘も多いと聞くが、光のこの欲のなさはいじらしいほどだ。
「…少し遅くなったが誕生日の祝いだ。それならいいか?」
「え?あの、その…ホントにいいの?!」
「ああ」
「ありがとう。一緒にお出かけする時の楽しみが増えちゃった!」
城の廊下を抜けると少し離れた草原に鎮座するブラヴァーダに視界を奪われる。
「お見送りはここまでにするね。行ってらっしゃーい!」
ぶんぶんと大きく手を振る光に軽く頷き、魔法剣をかざす。
「精獣招喚!」
蒼白き鬣(たてがみ)を靡かせる黒馬に跨り、約束をひとつ抱えて愛しき者にしばしの別れを告げた。
fin
★
覚兄様が「警察に稽古」というのが地味に凄い(゚д゚)!
それと実は先日つばさ様に以前お話をいただいたお礼を兼ねて、個人的にとある絵をお贈りしたのですが、それのために書いてくださる予定のストーリーの前日譚になっているのだそうです!
お話が付くことをまったく想定していない(というか自分だけの裏設定がない)絵だったのでこのお話のアイデアに一人納得。
つばさ様、どうもありがとうございました!
続きも楽しみにしてます~♪
私信:
一部改行を入れさせてもらった部分がありますが、もし差支えありましたらいつでもお申し付けくださいませ!>つばさ様
人使いの荒い親衛隊長に辺境の森の魔物退治を振られたせいで、予定が押しに押しまくっていた。
他の時ならどうということもなかったが、今日の午後にチゼータ訪問の為にブラヴァーダで出港することはずいぶん前から決まっていた。
手を焼いていたならもっと早くに言えばいいものを、出掛ける準備をしていた昨日になって『留守にする前に助(すけ)てやってくれんか』などと言い出したのだ。
管轄主義なのか何なのか知らないが、ラファーガはギリギリまで親衛隊の面子(めんつ)だけで乗りきろうとするきらいがある。
いつまでも手取り足取りでは新入りが育たないという考えも有るのだろうが、彼らが疲弊するほどではやり過ぎだろう。
そこそこの手が要るならそれなりの配慮はするのにと思いつつ、そんなことをこちらから言い出せばこじれるだろうかと様子見を決め込んでいた。
今後に関してはまた帰国してからの案件だ。
精獣を喚んで廊下を駆けるなと導師に口煩く言われているので、致し方なく可能な限りの速歩きになる。
チゼータ皇太后の生誕祭に招かれ公式訪問するフェリオ王子はすでにブラヴァーダに乗り込んで待機中だというし急がねばと廊下を歩いていて、ふいに現れた気配に足が止まった。
「ヒカル…?」
学校があるはずなのにどうしたのかと気にはなるが、これ以上姫君達を待たせる訳にはいかない。
これがオートザムのNSXなら半日でも一日でも容赦なく待たせて広間に逆戻りしたのになどと考えていると、先日教えたばかりの近道を上手に辿ってあっという間に下まで降りてきていた。
「やった!ランティス見ーっけ!こんにちは♪もう間に合わないかと思ったけど慌てて降りてきたんだ。あ、歩きながらでいいよ。散々待たされてタータがもの凄く怒ってるらしいから…」
そう言われては立ち話も出来ずに歩を進めるが、光のほうはたかたか走っているような状態だ。
「ガッコウはどうした?」
「午前中だけ行ったよ。先生たち、会議で出張だから半日だったんだ。顧問の先生もいないから、部活もお休み!覚兄様も警察に出稽古つけに行ってるし、ランティスに逢いたくなったから『ちょっと寄り道する』って留守電だけ入れて来ちゃった。…ダメか?」
愛らしい顔を曇らせてそんなことを問いかけられて否と言える男がいるなら是非ともお目にかかりたいものだ。
「いや…悪くない」
「えへっ。やっぱり来て良かったー。その服、プレセアが考えてくれたおニューなんだよね?!」
「『おニュー』?」
「『おろしたて』ってことだよ!」
「ああ、そうだ」
「黒の鎧も好きだし、白の神官の服もいいけど、間のいいとこ取りって感じがするね。スッゴくカッコいい!!」
自分としては別に黒の鎧だけで構わなかったのに、導師に『そのなりでうろうろされては鬱陶しい!』などと言われ、ときおり神官の白い服も着るようになってはいたものの、あの格好は機動性に著しく欠けていた。
こういう公式訪問の折にも、鎧ではものものし過ぎるし、神官のなりでは万が一の対応にやや難があるからということで見兼ねた創師プレセアが仕立ててくれたのだ。
頓着する質(たち)ではないので、おろしたてだからどうということはなかったが、某国王家への礼儀云々より、愛しい娘が喜んでくれるほうが断然良いに決まっている。
「それって、やっぱりよそ行き?お仕事の時しか着ないのか?」
「……?」
光がそんなことを訊ねる意味を図りかねて答えずにいると、さっきまでのにこにこ上機嫌な顔がわずかに翳った。
「ヒカル…?」
「あのね、凄く素敵だから、今度一緒お出かけする時はその格好がいいなぁ…なんて。あ、でも、駄目ならいいんだ」
普段おねだりらしいおねだりをしない光にそんなことを言われて拒む理由など見当たらない。たとえあっても押しきってやる。
ふと思いついた考えは、我ながら名案だとわずかに笑みが零れた。
「なら、ヒカルにもセフィーロ風の衣(きぬ)を仕立ててもらおう。俺の物を考えるより、余程楽しんでやってくれるだろう」
「えっ?でも私、海ちゃんみたいにセフィーロでアルバイトしてないから、こっちの通貨ないよ」
海は考案のセフィーロ銘菓などのレシピのロイヤリティでちゃっかり小遣い稼ぎをしているらしい。
トウキョウにはミツグ君を多数揃えて欲しい物をあれこれ買わせる娘も多いと聞くが、光のこの欲のなさはいじらしいほどだ。
「…少し遅くなったが誕生日の祝いだ。それならいいか?」
「え?あの、その…ホントにいいの?!」
「ああ」
「ありがとう。一緒にお出かけする時の楽しみが増えちゃった!」
城の廊下を抜けると少し離れた草原に鎮座するブラヴァーダに視界を奪われる。
「お見送りはここまでにするね。行ってらっしゃーい!」
ぶんぶんと大きく手を振る光に軽く頷き、魔法剣をかざす。
「精獣招喚!」
蒼白き鬣(たてがみ)を靡かせる黒馬に跨り、約束をひとつ抱えて愛しき者にしばしの別れを告げた。
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覚兄様が「警察に稽古」というのが地味に凄い(゚д゚)!
それと実は先日つばさ様に以前お話をいただいたお礼を兼ねて、個人的にとある絵をお贈りしたのですが、それのために書いてくださる予定のストーリーの前日譚になっているのだそうです!
お話が付くことをまったく想定していない(というか自分だけの裏設定がない)絵だったのでこのお話のアイデアに一人納得。
つばさ様、どうもありがとうございました!
続きも楽しみにしてます~♪
私信:
一部改行を入れさせてもらった部分がありますが、もし差支えありましたらいつでもお申し付けくださいませ!>つばさ様
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